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内視鏡科 消化管内視鏡について
更新日 : 2022年1月12日
このページでは当院に患者さまを紹介くださる医療者の方向けに作成しています。中央病院内視鏡科消化管内視鏡の取組みについて紹介します。
問い合わせ:科長 齋藤 豊ytsaitoncc.go.jp
10cmを超える病変も拡大内視鏡診断を駆使してESDで完治
当院は内視鏡の診断・治療を年間5000件超実施しています。個々の患者さんに最も適した低侵襲治療を提供すべく、AIなどの開発を含む内視鏡の技術研鑽に努めています。
今や大腸粘膜内がんであれば10cm以上の腫瘍径があっても内視鏡治療が可能ですし、従来なら人工肛門になるような症例に対して、肛門を残せる治療の臨床研究も実施しております。
今回は、世界に誇れる「日本の大腸がん内視鏡診断・治療」を中心に解説するとともに、できるだけ多くの患者さんが医学の進歩の恩恵を享受でき、QOLの高い生活が送れるようにする方法を考えたいと思います。
世界に誇る日本の内視鏡診断・治療技術について
当院は、世界消化器内視鏡学会が認定する優良施設(Centers of Excellence)です。これは、日本には当院を含め2施設、世界でも20施設ほどしかなく、当院の内視鏡診断・治療技術を学びに、コロナ禍以前は世界中から年間100人以上の内視鏡医が研修に来ていました。
当科の医師は13人全員が日本消化器内視鏡学会の専門医・指導医を取得しており、週1回の外来以外はAM・PMずっと内視鏡をしている特化集団で、豊富な経験で磨き上げた内視鏡技術を提供しています。内視鏡センターには15もの検査室を備えており、必要に応じ紹介後1週間以内に内視鏡の予約を取ることも可能です。
また、ナショナルセンターという位置づけ上、常に最新機器を揃えています。スコープはすべて高解像度で拡大観察機能がついており、NBIや超拡大内視鏡も可能です。加えて、当院は AI の開発や臨床試験にも注力しており、3種類のAI診断支援システムを実臨床で使用しています。日本で開発したAIは質の高い教師データをディープラーニングさせています。いくら内視鏡のエキスパートといっても人間ですから、疲労や集中力の問題で見逃しを起こす可能性がありますので、優秀なAIの支援があると安心です。このように、内視鏡の高い技術と最新機器を組み合わせ、高度に精密な内視鏡診断ができることが当院の強みです。
日本発の技術に裏打ちされた高い診断技術
大腸がんの内視鏡診断はかなり奥が深く、胃がんの診断技術を応用する形で発展しました。27年前から臨床使用されていた拡大内視鏡は日本で開発された技術ですが、世界ではあまり普及していません。手先が器用でないと100倍ズームでピントを合わせて写真を撮れないからだと思います。また、光の波長を変えることで微細な表面模様や血管の異常を確認できるNBIも日本のがんセンター発です。この発想の元は胃がんで使われていたインジゴカルミンによる色素内視鏡でした。NBIはスイッチひとつで色素内視鏡に近い診断ができる手軽さから、現在では世界中に普及しています。
このような技術開発を背景に、日本の診断技術は世界トップクラスになりました。世界的にも発見するのが難しいと考えられている病変(早い段階で粘膜下層に浸潤していく陥凹型IIcや、病変が平坦で見つけにくい非顆粒型側方発育型腫瘍:LST-NGなど)が、日本では発見できていますが、欧米からの報告は極めて稀です。
高い診断レベルの日本だからこそ大きな効果に、便潜血陽性時にすべき対応
大腸がんでは、便潜血検査による検診と内視鏡による前がん病変(良性の腺腫や早期がんなど)の早期診断・治療で、罹患のみならず死亡も抑制できることが科学的に証明されています。
従って先進国では国家プロジェクトとして大腸がん検診に注力し、未受検者に連絡して受検率を高める工夫をしています。しかし、日本の便潜血検査の受検率は2から3割ほどと低く、陽性者が内視鏡検査を受ける割合も約6割に留まっています。このことを海外の医師と話すと、みんな驚きます。
米国ではオバマケアで50歳を過ぎたら全大腸内視鏡検査を無料で行うことにより、大腸がん罹患率・死亡率が劇的に減りました。より高い内視鏡診断レベルを持つ日本なら、このような対策を行うとさらに大きな効果が期待できるはずです。
現状では、少なくとも便潜血検査で陽性になったら、お近くの内視鏡専門クリニックなどで必ず内視鏡検査を受けるようご指導ください。もし近隣に適切な施設がなければ当院へご紹介頂いても結構です。がんの確定診断がなくとも、お気軽にご紹介くだされば幸いです。
また、大腸がんのハイリスク者(図1)では、便潜血検査で陰性であっても一度は内視鏡検査を受けるように推奨ください。適切なサーベイランスの回数など、詳しくは日本消化器内視鏡学会が公表した『大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン』をご覧ください。
図1:大腸がんのハイリスク者
複数の選択肢で解決する大腸内視鏡の拒否例や挿入困難例
大腸内視鏡は内視鏡医の腕によって挿入時の痛みや実施時間が大きく変わる検査です。「1回やって苦しかったから2度とやりたくない。お産よりも苦しかった」と言う人もいますし、そんな話を聞いて先入観を持つ人もいます。熟練医でも、痩せた女性、癒着などどうしても痛みが生じてしまう症例もあるので、そういった方には麻酔を適切に使うことも考慮すべきかと思います。
当院は、さまざまな理由で内視鏡検査がしにくい患者さんに対して、複数の選択肢をご用意しています。カプセル内視鏡の認定指導施設であり、外来診療として大腸カプセル内視鏡による検査も可能です。また、外来で大腸3D-CT検査(CTコロノグラフィー)を行っている限られた施設の一つでもあります。CTコロノグラフィーは大腸だけではなく、腎臓や肺なども一緒に確認することができます。実際に大腸の精査時に腎がんや肺がんが見つかることがあります。
また「内視鏡の挿入が難しい」という理由でご紹介されることもあります。当院には高い技術を持ったスタッフと多様な最新設備がありますので、挿入困難例でも対応できる可能性がありますので、がんでなくても、内視鏡を行う必要があればお送りいただいて差し支えありません。
受診控えをせずに早期発見・治療を促すことが進行がん増加防止の一手に
COVID-19感染を恐れ受診控えし、早期発見の機会を逃してしまう患者さんが増えています。この影響で数年後に進行がんが増えないか心配しています。当院も病棟を1つ COVID-19専用にしていますが、内視鏡センターでもしっかり感染対策を講じています(図2)。
図2:万全の感染対策を講じたうえでの内視鏡診断・治療
標準予防策は徹底し、患者さんごとにガウン、手袋を換えることは当然として、触れるところを検査毎に消毒していますし、前処置も可能な限り在宅で行ってもらい、病院の滞在時間を極力減らすようにしています。病院への受診を躊躇う患者さんがいた場合は、ぜひ「安心して大丈夫」だということをお伝えください。
可能な限り、低侵襲かつ日帰りで検査・診断・治療を同時に行います
大腸がんの内視鏡治療には、大きくEMR(内視鏡的粘膜切除術)とESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)があります(図3)。
当院では外来でできるEMRを可能な限り選択しています。病変があればその場で腫瘍の診断をし、可能であれば同時に切除もしてしまいます。2cm程度もしくは2 cm を超える病変でもEMRで一括で取れることはよくあります。もしEMRでは治療困難で、しっかり一括切除した方がよさそうな病変の場合は入院していただいて ESD をします。その際は基本的には前泊を含めて4泊5日のクリニカルパスを使用していますが、短期入院希望なども対応可能ですのでご相談ください。
図3 大腸がんのEMRとESD
なかには「早期がんなら全部 ESD だろう」とお考えの先生もいらっしゃるようですが、実はEMRで簡単に外来で切除できる場合もあります。それが顕著なのは直腸のNET(神経内分泌腫瘍)です。ESD が保険適用になっていることもあり、入院を覚悟して来院される方がいるのですが、基本的には1cm 以下のNETならESMR-LあるいはEMR-Cという工夫をすることでものの数分で治療が完了します。
患者さんの負担を軽減し、さらに、その後の治療方針も、なるべく人工肛門にならないような形でフォローしています。当院の豊富な臨床データから、1cm以下のNET G1であれば、免疫染色にてリンパ管や静脈に浸潤があっても、転移再発をしない可能性が示されています。
もしNET G1でリンパ管や静脈に浸潤があり、追加治療として外科手術を検討しているようなら、一度当院へご紹介いただければ幸いです。外科医と共に十分ご相談に乗ります。
また当院内視鏡科の治療を動画にて紹介しています。参考動画からご覧ください。
参考動画集
治療後に患者さんのQOLを低下させないために
また、直腸の早期がんでも、人工肛門を避けるための多施設臨床研究(局所切除後の垂直断端陰性かつ高リスク下部直腸粘膜下層浸潤癌(pT1 癌)に対するカペシタビン併用放射線療法の単群検証的試験;JCOG1612)を行っています。
現在、下部直腸の粘膜下層浸潤癌(pT1 癌)は外科手術が標準治療となっていますが、ESD/EMR でしっかり断端陰性で取れれば、5週間の放射線化学療法によって外科手術と同等の再発抑制効果がある可能性が示されており、それを確かめるための研究です。もし、外科手術を避けたい患者さんがいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。当研究の結果が出るのは5年以上先にはなりますが、期待の持てる新規治療候補となる可能性が高く、臨床試験へのエントリーすることが可能です。
診療科間の横のつながりが大きな力に
当院に対して、かつての大きな開腹手術のイメージが強すぎたせいか、今でも腹腔鏡などの低侵襲手術があまり得意でないという印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現在は腹腔鏡を専門とした大腸外科医がいますし、ロボット手術も全国でも早期に積極的に取り入れています。たとえ内視鏡治療ができなくて、外科手術となっても低侵襲な方法を選べます。
もしかすると内視鏡では難しいかもしれない、外科手術を検討するような治療困難例についても、ぜひご相談いただければと思います。我々は個々の患者さんに最も適切な治療を選択するために、内視鏡医と大腸外科医とで術前カンファレンスを実施しています。
当院は診療科どうしの垣根が低く、横のつながりが強いことも大きな強みと言えます。例えば、他院から大腸外科へ紹介されてきても、治療前の内視鏡はすべて内視鏡センターで行います。もし内視鏡で治療できる病変ならば、外科医と話し合って内視鏡治療に切り替えることがよくあります。
また、診療科をまたいだ低侵襲治療の開発にも取り組んでいます。肛門周囲パジェット病は標準治療が直腸切断術なのですが、内視鏡医が ESD で肛門がんをくりぬいて、皮膚科医と大腸外科医が肛門の皮膚を治すという低侵襲治療を始めています。治療成績も良好で、患者さんには非常に好評です。もちろん病理の評価をしっかりして、予後を考えた上で手術が必要なら標準手術を追加するという判断をしています。
このように、診療科を横断して協力し合って、より低侵襲な治療などに取り組めているのが当院の大きな利点です。国立がん研究センターのスローガンは「職員の全ての活動はがん患者のために!(All Activities for Cancer Patients)」であり、それを全診療科で連携して実現すべく努めています。