研究について
病理診断科では診断に直結する外科病理学的研究も積極的に行っており、研究所、臨床各科および他施設との研究協力も積極的に行われています。2023年度における研究活動を以下に要約します。
肝胆膵腫瘍部門
肝外胆管がんが発生部位により多様な臨床病理学的特性に有意な違いのあること、肝外胆管がんの上皮置換性進展が予後因子になること、胆道がんは同じく胆道の上皮置換性進展を示すものの乳頭部がん、胆嚢がん、胆嚢管がん、胆管がんによって進展様式が異なり、腫瘍型や発生部位によっても異なり、それら上皮置換性進展様式が各胆道がんを特徴付けていることを明らかにした。
消化管腫瘍部門
AIを駆使した早期胃癌患者におけるリンパ節転移リスクのない患者の選択アルゴリズムの探索に協力した。胃癌手術検体を用いた腸上皮化生陰窩のメチル化解析の研究に参加した。
皮膚腫瘍部門
p-Aktおよび/またはNUAK2の発現が、黒色腫患者の無再発生存期間(RFS)および全生存期間(OS)に及ぼす予後への影響を検証し、p-Aktの発現が原発性黒色腫患者のRFSに有意な影響を及ぼし、末端型黒色腫患者の再発を予測できることを報告した。
頭頸部・眼腫瘍部門
カテニンα1(CTNNA1)::ALK融合遺伝子を伴う唾液腺がんの病理学的特徴、臨床経過、および遺伝子状態の変化について検討した。ALK-TKIアレクチニブによる治療は、CTNNA1::ALKを有する唾液腺癌に対して当初有効であった。しかし経過とともに治療不応となり、それらの腫瘍ではTP53変異とPIK3CA変異の同時出現と、非ALK融合遺伝子の腫瘍細胞が選択的に出現し、ALK-TKI薬剤選択的増殖が示唆された。
新規CRTC3::IQGAP1融合遺伝子を伴う耳下腺の腺房細胞癌様特徴を有する低悪性度癌について報告した。
小児における骨化性形質転換を伴う網膜グリオーシスについてゲノム解析を含めた報告をした。
婦人科腫瘍部門
子宮癌肉腫のHER2-ADC臨床試験/PDX研究の中央判定を実施した。子宮体癌の分子分類の有用性を本邦1000例以上のデータで示し、新FIGO2023分類の予後予測能も本邦コホートで示した。子宮内膜間質肉腫148例のJCOG多施設研究、子宮癌肉腫のADC標的(FRα, TROP2)発現,子宮体癌のPDX, MMR-IHCの異なるクローン間の一致性、子宮頸部胃型腺癌のPDXにつき論文発表し、胃型形質を示す卵巣粘液性腫瘍や卵巣中腎様癌の症例報告をした。
骨軟部腫瘍部門
NTRK1/2/3, BRAF, RAF1, RETなどキナーゼ遺伝子の融合を有する紡錘形細胞腫瘍の約70%でCD30が陽性となり、鑑別診断に有用であることを見出した。BCOR肉腫と形質やDNAメチル化プロファイルの重複する紡錘形細胞肉腫においてKDM2B遺伝子融合が存在することを発見しBCOR肉腫の概念拡張を提唱した。核に多形性の目立つ粘液型脂肪肉腫の小群を解析し、DDIT3融合に加えてTP53変異が一貫して見られることを示した。炎症性横紋筋芽細胞腫瘍の13例(悪性転化2例含む)において臨床病理学的解析、遺伝子解析、ゲノムレベルコピー数解析、DNAメチル化解析を行い、その詳細な特徴を明らかにした。骨外性粘液型軟骨肉腫において、線維化とケラチン発現を伴う稀な組織パターンを見出した。骨巨細胞腫において、好塩基性のレース状基質沈着が稀に出現しうることを記載した。
脳腫瘍部門
稀なEP300::BCOR融合を持つ高悪性度神経上皮腫瘍の症例を報告し、上衣腫様の形態を示す中枢神経腫瘍の鑑別診断に含めることを提案した。
血液腫瘍部門
消化管濾胞性リンパ腫多数例の診療実績をもとに、十二指腸濾胞性リンパ腫の特徴を検討し、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に形質転化する例の頻度・特徴を明らかにした。濾胞性リンパ腫の形質転化に関する病理学的所見について総説を発表した。
泌尿器腫瘍部門
日本人の腎細胞癌におけるゲノム、エピゲノム統合解析に関して共同研究を行った。
乳腺腫瘍部門
トリプルネガティブ乳癌の原発巣と転移巣とにおけるPD-L1発現の変化を、コンパニオン診断薬2種について比較検討し報告した。トリプルネガティブ乳癌におけるMAP1Bの浸潤や腫瘍形成における役割について報告した。
呼吸器腫瘍部門
KRAS G12C阻害剤の普及に伴い、肺癌におけるKRAS変異の臨床病理学的な意義についてレビューを行った。肺門型の扁平上皮癌についての早期病変はよく検討されているが、末梢型扁平上皮癌の早期病変についてその形態の変化について報告した。周術期治療の広がりに対して、バイオマーカー検査をいかに組み入れていくかについてレビューするとともに、EGFR変異の多いアジアでのコンセンサスレポートを発表した。