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すりガラス状結節
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「毎年胸部単純X線写真を受けて異常なしとされていたにもかかわらず、偶然受けたCT検査にて肺にすりガラス状結節があるといわれた。担当の先生からは肺がんと言われ手術を勧められた」
「肺にすりガラス状結節があるといわれ、定期的にCT検査を受けていた。症状はないが、今回の検査で大きくなっていると言われ手術を勧められた」
国立がん研究センター中央病院呼吸器外科のセカンドオピニオン外来を受診される患者さんのなかには上記のようなすりガラス状結節に関する相談が多く見受けられます。ここでは肺のすりガラス状結節について解説します。
目次
- すりガラス状結節とは
- すりガラス状結節の診断
- すりガラス状結節の発育過程
- CT画像と病理像の対比
- すりガラス状結節を伴う肺腺がんの特徴
- すりガラス状結節の治療方針
- すりガラス状結節を伴う肺腺がんに対する手術
- すりガラス状結節が多発する場合の治療
- まとめ
すりガラス状結節とは
図1:右肺上葉のすりガラス状結節
すりガラス状結節は、「もともと肺に備わっている正常な気管支や血管を覆い隠さない、CT画像における軽度の濃度上昇を伴う領域」と定義されます。図1は右肺上葉のすりガラス状結節の一例です。赤矢印で囲まれたもやっとした淡く白っぽい部分が病変部位になります。病変の内部には血管がすりガラス状結節に影響されずに走行しています。淡いすりガラス状結節は、しばしば胸部単純X線写真では発見することは困難です。
すりガラス状結節の診断
図2左のCT画像は検診で発見された右肺下葉のすりガラス状結節です。この患者さんでは経過観察を行い、半年後のCT(図2右)ではすりガラス状結節は消失しています。経過で消失するすりガラス状結節は、炎症性変化(例えば風邪をひいていたなど)であったと考えられ問題はありません。一方、経過観察中に消失しないすりガラス状結節は腫瘍性病変の可能性が高いと考えられます。
図2:経過で消失したすりガラス状結節の一例(左が初回検診時、右が半年の経過観察後のCT画像)
すりガラス状結節
- 経過で消失→炎症性変化(良性)
- 経過で不変ないし増大→腫瘍性病変の疑い
すりガラス状結節の発育過程
経過で消失しないすりガラス状結節は腫瘍性病変が疑われると述べました。より具体的には早期肺がん(肺腺がん)の可能性が考慮されます。「肺がん」と言われると多くの患者さんは心配されますが以下に述べるように肺がんであったとしても早期であると考えられます。図3は肺腺がんが時間経過とともに段階的に発育する様子を表しています。
図3:肺腺がんの多段階発がんモデル
異型腺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasia, AAH)は肺腺がんの前がん病変と考えられています。上皮内腺がんは図4に示すように、肺胞上皮を置換するように発育する肺腺がんです。置換とは、「がん細胞が肺胞という構造に沿って薄く広がっている」という意味です。肺がんと診断されますが、周囲への浸潤がなく、その場に留まるおとなしいがんです。微少浸潤性腺がん(図5)は顕微鏡での観察において周囲への浸潤所見を認めますが、その範囲はわずかであり上皮内腺がんと共に手術後の予後は良好です。浸潤の範囲が広くなると浸潤性腺がん(図6)と診断され、やがてリンパ節転移や血行性転移(骨や脳、肝臓などへの全身性の転移)を伴う進行がんになります。
これまでの研究から肺腺がんは段階的な経過をたどると考えられるようになりましたが、実際に進行がんになるまでは長い時間を要すると推測されています。
図4:上皮内腺がんの病理像
図5:微少浸潤性腺がんの病理像(弱拡大で青矢印の部分が、浸潤部位になります。浸潤部位を強拡大像で示しています。)
図6:浸潤性腺がんの病理像
CT画像と病理像の対比
先ほど述べたように、肺がんは段階的な変化をへて成長していくということを理解することが大事です。また肺腺がんの段階的な成長の過程はCT画像から推測することができます。すりガラス状結節から、内部に芯(充実濃度成分)が出現し、徐々に大きくなるとともに充実結節(CTでは白い塊)へと移行していきます(図7.8)。すなわち、すりガラス状結節は早期肺腺がんであると考えることができます。
専門的にはすりガラス状結節のみからなる病変のことをpure ground-glass nodule (pure GGN)、すりガラス状結節の中心部に芯がある病変のことをpart-solid nodule、充実結節のみからなる病変のことをsolid noduleと呼称します。
図7:肺がんの多段階発がん過程におけるCT所見の推移(白い丸印はCT画像の芯(充実濃度成分)を表しています。)
図8:CT画像所見の分類(上左画像はすりガラス状結節のみからなる病変、上右画像はすりガラス状結節の中心部に芯がある病変、下段は充実結節のみからなる病変です。)
すりガラス状結節を伴う肺腺がんの特徴
すりガラス状結節を伴う肺腺がんの特徴
- 女性でたばこを吸わない方
- 若い年齢
- 緩徐な経過
- 多発(複数の病変)
すりガラス状結節を伴う肺腺がんの特徴は上記の点が挙げられます。喫煙は肺がんのリスク因子であることがよく知られていますが、すりガラス状結節を呈する肺腺がんはたばこを吸わない若い女性の方にも起こりえます。たばこを吸わないから肺がんにならないというわけではないことに注意が必要です。
すりガラス状結節の治療方針
CT検査にて見つかったすりガラス状結節のすべてが手術になるわけではありません。実際に精密検査の対象となるのは6ミリメートル以上の病変です。日本CT検診学会のガイドラインでは病変の大きさが15ミリメートル以下かつ充実濃度成分(芯の部分)の大きさが5ミリメートル以下であれば定期的な経過観察が考慮されます。
日本CT検診学会のガイドラインのホームページ(外部サイトに移動します)
ただし、肺がんが強く疑われる場合には確定診断および治療(手術)が選択されます。また経過観察が行われた場合でも大きくなるようであれば手術が勧められます。実際にはCT画像所見だけでなく、年齢や併存疾患、病変の部位を総合的に判断し患者さんと相談のうえ方針が決定されます。
- 例えば患者さんの年齢が85歳で病変の増大が緩徐であれば、無理に手術を選択せず経過観察を継続するのが適切でしょう。
- あるいは小さなすりガラス状結節が肺の中央部にある場合は、肺の切除量が多くなる可能性があるため治療のメリットとデメリット、すりガラス状結節の成長速度を考慮して手術のタイミングを検討するのがよいでしょう。
経過観察といわれた患者さんの中には、すりガラス状結節が急速に大きくなることを心配される方がおられますがほとんどの場合で変化は緩徐です。また経過観察中の増大は2ミリメートルの変化と定義されています。
すりガラス状結節に対する治療方針
- 小さな病変は経過観察
- 増大があれば手術を検討
- 年齢・併存疾患・病変部位などを考慮
すりガラス状結節を伴う肺腺がんに対する手術
すりガラス状結節を伴い肺腺がんは早期肺がんであることを述べました。それゆえ肺がんの根治性を保ったうえで肺機能の温存を図り、手術侵襲(体の負担)を少なくする努力が必要です。国立がん研究センター中央病院呼吸器外科ではCT画像所見に基づき術式の選択を行っております。とりわけ区域切除については症例数が多く豊富な経験を有しています(診療実績は「診療について」で確認できます)。区域切除についての解説は「区域切除について」をご参照ください。
すりガラス状結節を伴う肺腺がんに対する手術
- CT画像所見に基づく術式の選択
- 根治性を保ちつつ肺機能を温存
- 楔状切除・区域切除を考慮
すりガラス状結節が多発する場合の治療
すりガラス状結節が多発する患者さんの場合は病変ごとに治療の優先順位をつけるのが適切です。そのうえで切除が必要な病変であるか、あるいは経過観察が適切な病変であるかを判断する必要があります。通常は一番成長している病変(一番大きい病変)から治療を行います。手術に際しては可能であれば肺機能を温存する手術(区域切除など)を検討します。病変が複数あり、肺切除により肺活量の低下が懸念される場合には定位放射線治療を組み合わせて集学的な治療を心がけます。また経過観察を選択した病変であっても、経過中に増大を認めることがあるため時間を経過して再び手術を行う場合もあります。このように多発するすりガラス状結節には慎重な治療と経過観察を継続する必要があります。
図9:左右肺に多発するすりガラス状結節の症例(両側肺の区域切除および部分切除が行われました。)
まとめ
経過で消失しないすりガラス状結節は早期肺腺がんが疑われます。しかし、すりガラス状結節のすべてががんではなく、良性疾患と鑑別する必要があります。一般的に、すりガラス状結節をとるがんは一般的にゆっくりと増大しますが、進行する場合もありますので、正しい診断に基づき、適切な時期に、適切な治療介入を行うことが大切です。病変の大きさや性状、年齢、併存疾患や病変の部位などによって総合的に治療方針を検討します。手術に際してはCT画像所見に基づき区域切除などの縮小手術が考慮されます。それゆえ、呼吸器外科医のみならず、画像所見の詳細な診断を行う放射線診断専門医、病理所見を詳細に診断する病理専門医、また多発肺腺がんにおいては放射線治療専門医や呼吸器内科医との綿密な連携、集学的治療が必要です。
集学的治療について
国立がん研究センター中央病院呼吸器外科では、他科との密接な連携および協力のもと、すりガラス状結節を伴う早期肺腺がんの治療を行っています。また手術のみならず小さな病変に対しては経過観察を選択し不要な手術を回避しています。
肺がんの診断・治療・手術
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